SEED : キラ*フレイ
例え、沢山の人の中から君という存在を見つけ出したのが僕であったとしても、僕という存在を選び取ったのは、まぎれもなく君の方。
例え、沢山の人の中から君という存在を見つけ出したのが僕であったとしても、僕という存在を選び取ったのは、まぎれもなく君の方。
フレイが、僕ではない誰かを見ていた。
「……あ、」
咄嗟に零れてしまった声に彼女は気づかない。それを拾える距離にいないのだから、当然といえば当然のことだ。
なのに、この心は納得しない。どうして些細な声すら届く距離に居てくれないのだと、彼女を責める言葉しか浮かんでこないのだから、相当だ。
――それも全部、あの瞳のせい。
思いのこもった眼差しで彼の人物を追い、何事かを言いたげに唇を動かす。胸元で握り締められた手の微かな震えが、その心の内を物語っているようで、堪らなかった。
けれども それらの感情をフレイの前で吐露してしまうわけにはいかず、す、と瞼を閉じると一旦全ての事柄を頭から追い出してしまうことにした。波立つ心が、これ以上乱れてしまわぬよう、慎重に鎮めてゆく。
そうして一度、試しに微笑を浮かべ、引き攣った頬の筋肉を解すと何食わぬ顔でフレイの元へ歩み寄った。
「……あれ? こんなところで、どうしたの?」
さも、今見つけたとばかりにフレイへ話しかけると、彼女はパッと此方を見て、掠れた声で僕の名前を呟いた。向けられたのは、落胆と安堵が綺麗に混ざり合った眼差しだ。
その、先程とは比べものにならない温度の差に、擡げ始めた感情などは捻じ伏せて、僕はただ微笑んでみせる。
今、こうして此処にいるのが、見つめていた彼じゃなくて、ごめんね。
でも、ずっと一人でいるのも、嫌だったんだよね。
ああ、本当に。眼差し一つとっても、酷くて、我儘で、可愛くて、なんて愛おしい!
僕の表情を見て、こくん、と小さく息を呑んだフレイが、無言で地を蹴り、その勢いのまま抱きついてきた。
触れた手は、もう、少しも震えてなどいない。
「……帰りましょ」
促され、うん、と頷けば、腕に絡められた手に力がこもったので、応えるように自分の手を重ねた。触れても抵抗されず、彼女の中へ溶け込んだのを、きちんと見届けてから、僕は今日初めて、心からの笑みを浮かべた。
選んだのは、君
(それを否定するのは、君自身を否定することと同じなんだと早く気づいて)
(僕を否定する心には、どうか気づかないままで いて)
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