一緒に過ごす内、少しわかった気になっていたが、やはり加地には理解出来ない言動が目立った。他人なのだから当たり前といえば、そうなのだろうが、中途半端に理解ってしまうから問題なのだ。
加地は口だけでなく、目でもよく語った。やっぱり君にはわからないよね、と少しだけ寂しそうに落胆と失望をのせて、でもわかってもらおうとは思わない、と言い切るのだ。
それが、面白くなかった。
どうして――なんて、考えたくもないが。
「あのね、」
声を潜ませ、口許に手をやる仕種は、耳を貸せという合図。
男同士でこそこそ内緒話なんて……そう思う気持ちはあったが、一度でも拒否すれば、簡単に引き下がることは目に見えていた。しつこそうに見えて……いや実際しつこいのだが、自分のことに関しては案外引き際が良かったりもするのだ、コイツは。
例え腹の中で何を思っていようと、その線引きはとても明確で。そうなってしまえば、踏み込むことは容易ではない。それがわかるから、如何にも不本意だというスタンスは崩さないまま、加地の方へ耳を傾けると、薄く笑う気配をやり過ごし、頬骨に触れた手を甘受する。
奴の手は、少し、冷たかった。
「――僕も、君みたいにあれたらいいと 思ったんだよ」
「はあ?」
理解が及ばず、離れてゆく加地を目で追えば、笑顔にぶつかった。
小首を傾げ、ぎりぎりまで細めた瞳で笑う。貼付けられたものではないそれに、何故だか胸中がずしんと重みを増した。
す、と吸い込んだ空気の塊が、思うままに変換される。
「お前は、お前だろ?」
じっと見つめた先、一瞬虚をつかれた顔をした加地は、先程までの様子が嘘みたいに、歪に笑った。その痛みを堪える様子に驚く。そんな表情をさせてしまうような何かを言ったとは思えなかったからだ。
(どうして、お前は“そう”なんだ)
『君みたいにあれたら』
耳の奥、蘇る言葉に知らず顔を顰めた。
こいつは、いつも小難しいことばかり考えている。俺の理解の及ばない次元でばかり……そう思うと、少々腹が立ってきた。
加地の頭をはたき、うわ、と聞こえてきた声は無視して、ばーか、と一言。
今の状況をうまくのみこめていない奴の額へ掌を押し当てるとぐしゃぐしゃと前髪をかきまぜてやる。
「ちょっ、土浦、なに?」
振り払われた手を無造作にポケットの中に突っ込むと、軽く胸を張ってみせた。
「で? 俺みたいに、だったか?」
きょとん、と目を丸くする加地を見て、更に続ける。
「お前が言うほど、いいもんじゃねえよ。わかるだろ?」
呆然と俺を見つめていた目が細められ、次の瞬間には、ふは、とふきだす音がした。あはは、と楽しげな笑い声が聞こえたところで、俺も表情を緩める。
だが、それだけでは終わらなかった。
「まったく、わかってないなあ、土浦は」
「……何だよ」
「君の、そういうところが好きだって言ってるんだよ」
「お前なあ、」
思わず顔をしかめる。全くもって面白くない冗談だ。というか男同士で寒い上、一番嫌いな類のやりとりに違いない。
だから、
「……あ、」
しまった――とばかりに、ばふっと口許を覆う掌を、引き剥がしてやりたいと思った。
その衝動のまま、加地へ向けて手を伸ばせば、さっと後ずさられる。
「……ごめん」
「どうして謝る」
「じゃあ、土浦が悪い!」
「なんで、そうなる!」
つっこみきれん、と頭を抱えれば、狙いすました絶妙な間で加地が笑った。
目だけは、切なさを滲ませた ままで。
「……僕なんかに思いを傾ける。君が、悪いんだよ」
(――馬鹿が)
放ったはずの言葉は声にならず、喉元で 浮いた。
それで、満足か
( 俺が悪い? 誰のせいだ、誰の )
「気づかないでいいよ」の続きのつもり。予想外にも、ぽちぽちと拍手頂けたので(ありがとうございます!)何か続き書けないかな~と思ってたら、自転車こいでる時に、ふとその後っぽいのが浮かんだのでちょっと書いてみました。携帯でちまちま打ってたせいで、遅くなりましたがorz ちょっとは土→加に近づいたかな。どうかな。まだダメかなー。本当は2パターン書いてたんですが、あえてこっち。こうなったら続かせて「つちかじ」にしたいような気もしますが、予定は未定(´・ω・`)
加地は口だけでなく、目でもよく語った。やっぱり君にはわからないよね、と少しだけ寂しそうに落胆と失望をのせて、でもわかってもらおうとは思わない、と言い切るのだ。
それが、面白くなかった。
どうして――なんて、考えたくもないが。
「あのね、」
声を潜ませ、口許に手をやる仕種は、耳を貸せという合図。
男同士でこそこそ内緒話なんて……そう思う気持ちはあったが、一度でも拒否すれば、簡単に引き下がることは目に見えていた。しつこそうに見えて……いや実際しつこいのだが、自分のことに関しては案外引き際が良かったりもするのだ、コイツは。
例え腹の中で何を思っていようと、その線引きはとても明確で。そうなってしまえば、踏み込むことは容易ではない。それがわかるから、如何にも不本意だというスタンスは崩さないまま、加地の方へ耳を傾けると、薄く笑う気配をやり過ごし、頬骨に触れた手を甘受する。
奴の手は、少し、冷たかった。
「――僕も、君みたいにあれたらいいと 思ったんだよ」
「はあ?」
理解が及ばず、離れてゆく加地を目で追えば、笑顔にぶつかった。
小首を傾げ、ぎりぎりまで細めた瞳で笑う。貼付けられたものではないそれに、何故だか胸中がずしんと重みを増した。
す、と吸い込んだ空気の塊が、思うままに変換される。
「お前は、お前だろ?」
じっと見つめた先、一瞬虚をつかれた顔をした加地は、先程までの様子が嘘みたいに、歪に笑った。その痛みを堪える様子に驚く。そんな表情をさせてしまうような何かを言ったとは思えなかったからだ。
(どうして、お前は“そう”なんだ)
『君みたいにあれたら』
耳の奥、蘇る言葉に知らず顔を顰めた。
こいつは、いつも小難しいことばかり考えている。俺の理解の及ばない次元でばかり……そう思うと、少々腹が立ってきた。
加地の頭をはたき、うわ、と聞こえてきた声は無視して、ばーか、と一言。
今の状況をうまくのみこめていない奴の額へ掌を押し当てるとぐしゃぐしゃと前髪をかきまぜてやる。
「ちょっ、土浦、なに?」
振り払われた手を無造作にポケットの中に突っ込むと、軽く胸を張ってみせた。
「で? 俺みたいに、だったか?」
きょとん、と目を丸くする加地を見て、更に続ける。
「お前が言うほど、いいもんじゃねえよ。わかるだろ?」
呆然と俺を見つめていた目が細められ、次の瞬間には、ふは、とふきだす音がした。あはは、と楽しげな笑い声が聞こえたところで、俺も表情を緩める。
だが、それだけでは終わらなかった。
「まったく、わかってないなあ、土浦は」
「……何だよ」
「君の、そういうところが好きだって言ってるんだよ」
「お前なあ、」
思わず顔をしかめる。全くもって面白くない冗談だ。というか男同士で寒い上、一番嫌いな類のやりとりに違いない。
だから、
「……あ、」
しまった――とばかりに、ばふっと口許を覆う掌を、引き剥がしてやりたいと思った。
その衝動のまま、加地へ向けて手を伸ばせば、さっと後ずさられる。
「……ごめん」
「どうして謝る」
「じゃあ、土浦が悪い!」
「なんで、そうなる!」
つっこみきれん、と頭を抱えれば、狙いすました絶妙な間で加地が笑った。
目だけは、切なさを滲ませた ままで。
「……僕なんかに思いを傾ける。君が、悪いんだよ」
(――馬鹿が)
放ったはずの言葉は声にならず、喉元で 浮いた。
それで、満足か
( 俺が悪い? 誰のせいだ、誰の )
「気づかないでいいよ」の続きのつもり。予想外にも、ぽちぽちと拍手頂けたので(ありがとうございます!)何か続き書けないかな~と思ってたら、自転車こいでる時に、ふとその後っぽいのが浮かんだのでちょっと書いてみました。携帯でちまちま打ってたせいで、遅くなりましたがorz ちょっとは土→加に近づいたかな。どうかな。まだダメかなー。本当は2パターン書いてたんですが、あえてこっち。こうなったら続かせて「つちかじ」にしたいような気もしますが、予定は未定(´・ω・`)
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