おお振り:本山*山ノ井
これだから、困る。
これだから、困る。
自転車を置き、校舎に向かって歩いている途中で、突然背中に重みがかかった。情けない声が唇から零れ、ぐらりと身体が傾いだが、足を踏ん張ることで体勢を立て直す。
どうにかこうにか後ろへ顔を向ければ、間近で予想通りの顔が満面の笑みを湛えて、いて。
「ハッピーバースデートゥーミー! ってことで、プレゼント頂戴」
ほい、と掌を目の前に出されて、ひくりと口角が引き攣った。
「おーいおいおいヤマちゃん、挨拶もなしにイキナリそれ?」
「あ、おはよう、モトやん」
「おそい」
振り向かないまま軽いチョップをすれば彼は、いて、と形だけ痛がる素振りをした。
わざとらしい。
「ったくもー、いくら自分の誕生日だからって、朝っぱらからプレゼントたかりにくるか? フツー」
如何にも呆れてます、というように言ったはずなのに、当の本人は可笑しそうに笑うだけだった。
「だいじょうぶ。モトにだけだから」
何が大丈夫なんだ、とか、俺だけだからどうした、とか言いたいことはいっぱいあったはずなのに、飲み込まざるをえないのは――。
(……あー、もうっ!)
「ほらほら、早くしないといつまでも教室に着けないよー」
そう言って、俺の両肩に乗せた二本の腕を催促するようにぶらぶらと揺らす。それをぐいっと前へ引っ張り、おぶさるような形にしてやると耳元で、ぶーぶー、なんて不満げな声が聞こえ始めた。尖っているであろう唇と、おそらく爪先立ちになっているであろうヤマちゃんの姿がありありと想像出来て、自然と口元が緩んでしまう。
「しょうがねえなあ、ヤマちゃんは」
「なにさ、俺の誕生日なんだからモトが祝うのは当然だろー」
「当然、ね。プレゼントなんて持ってないって言ったら、俺どうなっちゃうわけですか?」
「ふふふ、私は知っているのだよ。祐史くんがちゃあんとプレゼントを用意してくる奴だってことはね」
芝居がかった口調で言い切られ、う、と詰まった。
確かに、持ってきてはいる。以前から考えて考えて用意を、して。昨晩この鞄の中にそっと忍ばせたのだ。
だけどこれでも、いつどこでどうやって渡すか、とか色々計画立ててたっていうのに! ヤマちゃんのおかげで全部だいなしだ。
どうしようかぐるぐる考えていると、ヤマちゃんは何を思ったのか突然首に腕を巻きつけ、地面をトンと軽く蹴った。腰の辺りに持ち上げられた二本の足を反射的にキャッチすると、言うまでもなく彼をおんぶしていることになるわけ で。
(つーか、周りの視線が痛いんですけど!)
いや、ここで恥ずかしがれば、思うツボだ。おんぶなんて、されてるヤマちゃんの方が、もっと恥ずかしいはず!
そう思ってはみたものの、何故か背中のいる彼は上機嫌だった。
「もう階段上るのしんどいし、これで教室までGO! ってことで、モトよろしく!」
「はあ!?」
「しょうがないから、プレゼントは教室でもらってあげよう。さあ、行きたまえ」
ぺしぺし、と頭を叩かれて、乾いた笑みがもれた。なんだこの上から目線の生き物は。
即刻、落としてやることも可能ではあったが、一応誕生日だというのにそんな仕打ちをするのは良心が痛んだ。そんな俺の性格をわかってやっているのだから、性質が悪い。
(……惚れた弱み、か)
嫌な言葉だ。だけど、それでも構わないと思った時点で、もう引き返せないところまで来てしまっているんだろう。
仕方ない。君が生まれてきた、年に一度の大切な日だ。
――こうなったら、どんな我儘でもきいてみせましょう?
「ったく、しっかり掴まってろよ、ヤマちゃん!」
「よし、きた! いつでもこーい!」
おめでと
( けれど出来れば、来年は素直に祝わせてほしい なんてな )
誕生日にアップしようとして、二回逃した二年前のブツ(…)大したものじゃないので、もういいかなと思ってこっち持ってきました^▽^ バカなことやってばっかりいる本山ノ井が書きたいです(´・ω・`)むずかしい。
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