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seed : アスラン*ラクス(キラフレ風味)

 まだ、間に合いますか。


 午後になる前に、キラたちに会いに行くと、出迎えてくれたのはラクスだった。
 ついクセで買ってしまった、でも以前よりは小振りな花束を渡せば、ラクスは嬉しそうに微笑んだ。その笑みに、少しだけ過去のことが思い起こされ、慌ててかき消す。

 辺りは静まり返っていた。どうやら、子どもたちは皆、遊びに出かけているらしい。
 お腹が減った頃……そうですね、お昼頃にはきっと帰ってきますわ。というラクスの言葉を聞きながら、促されるままに玄関へ足を踏み入れる。
 やはり、人気はない。

「キラは?」
 気になっていた人物の名を問えば、ラクスは少し笑ったようだった。
「キラは、まだ、おやすみ中です」
「は? ですが、もう……」
 お昼も近い、という言葉を、もごもごと口の中で呟く。
「そうですね、困ってしまいますわね」
 ちっとも困った素振りも見せずに、彼女は、ふふふ、と笑っている。

「あの、ラクス?」
「はい?」
「いえ、その……起こさなくても、いいんですか?」
「わたくしも、起こそうと思ったのですけれど」
「けれど?」
「キラが、あまりにも幸せそうな表情をして眠ってらっしゃるので」
 起こせなくなってしまったのですわ。

 途端に、今、子どもたちがいない理由に思いあたった。
 多分、ラクスがキラを思って……そこまで思ったところで、くるりとラクスが振り返った。

「運が良いですわね、アスラン」
「は?」
「キラが、あんな表情で眠っていらっしゃった時は、一日、とても機嫌が宜しいのです」
「……はあ、」
 そうなんですか、と呟けば、はい、と嬉しそうな声が返った。
 だから俺は、そのずれに気づけずにいた。
「全く、アイツは……一体何の夢を見ているんでしょうね」
 やれやれと口にした言葉に、ラクスが歩をとめた。先程までの無邪気さが一変して、す、と大人びたものになる。

「――きっと、大切な方の夢を」

 遠く注がれた眼差しの先に、ラクスも見ているのかもしれない。キラが望み、現実世界から目を逸らしてまで見ている、夢を。
「夢の中の彼女に、感謝しなくてはなりませんわね」
 おかげで、キラは日々を過ごしていらっしゃる。
 そう言って微笑む姿に、無理をしている様子は見えない。本当に感謝をしているような瞳だ。
 キラの前ではラクスもただの少女だったのだと、自分が不甲斐なく思ったあの時を、思い出してしまうぐらいには。

「……ラクス、」
「はい」
「その、ラクスはそれで……」
「はい?」
「それで……いいんですか?」
 まあ、と驚きをあらわにして彼女はころころと笑った。

「わたくし、ではなく、アスランが納得いかないだけなのでは?」
 思わぬ切り返しに、え、と言葉が詰まる。
 何と答えていいものかわからずうろたえると、ラクスは弧を描いた唇から、ふと息を吐いた。
「……仕方のない、ひと」
「え?」
 咄嗟に聞き返せば、いいですか? と大人が子どもへ言い聞かせるように口にする。
「キラが何をもって幸せと思うかは、キラ自身が決めることです」
「……はい」
「でも、それはアスランにも言えることですわ。あなたの幸せも、あなた自身が決めるもの」
 ――勿論、わたくしも。
 続いた言葉に、いつの間にか伏せ気味になっていた顔をあげた。

「ラクス、も?」
「はい」
 深く頷くと同時に、ラクスはゆっくりと瞬きをした。
「わたくしの幸せは、わたくしが決めます。誰に不幸だと言われようと、私が幸せだと思えば、それは私の幸せになるのです」
 言葉にもならずに、こくりと咽喉を鳴らす。
 アスラン、と呼ぶ声が、凛と響く。

「わたくしは、嘆いておりませんし、悲しくもありません。ただ、嬉しいのです」
 おわかりいただけまして? と、ラクスが小首を傾げた。
 曖昧に頷くことしか出来なかった俺に、まだわからないのですか、と彼女が笑う。
「きっと今日、キラはとても機嫌が良いでしょう。そんな日に、こうしてアスランが訪ねてきて下さって、わたくしのために素敵なお花を用意して下さった。良いこと尽くめでしょう? 嬉しくないはずがありません」
 思いがけず自分の名を出され、脳内がうまく働かない。

「え?」
「さあ、アスラン。座って下さい。昼食の前に、あなたにお茶を振舞わせて下さいな」
 二人だけの、小さなティーパーティーをしましょう。
 悪戯に人差し指を唇にあてて、でも何より楽しそうに彼女が言う。

 じわりと湧き上がってくる、この感情はなんだろう。
 ぼうっと見つめたラクスがより一層笑みを深めて、俺を促すように手に触れる。

『何をもって幸せと思うかは、』

 脳裏に過ぎる、ラクスの言葉。
 ああ、そうですね。
 俺は今、この瞬間を幸せだと感じます。



 あなたも――俺と同じ気持ちならいいのに。



幸せにふれる
( 掴んだら、もう離さない )


運命前な感じ。アスラクは何だかんだ言いつつ突然書きたくなる不思議なカプ。婚約者時代の夢はまだ終わっていません(私の脳内で)うちのキラは相変わらずですが、アスランもラクスもキラが好きだったらいいよね。うん。あんまり暗くならないようにはしたつもりですが、どうでしょう^o^今はラブラブというより穏やかな雰囲気のアスラクが好きです。アレ、前からそうだったかな^^^

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