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好きなものを、好きなように、好きなだけ
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corda : 柚?←火原*日野

  火日は恋人設定。なのに柚←火っぽいです。でも火日です(…)
  少しでも嫌な予感がした方はスルー推奨です。何でもおkな方のみどうぞ。


  縋りついた腕の錘ごと、愛して。



  その視線の先を追って、すう、と冷えてゆく心。
  気がついた時には、先輩の腕を思い切り引いていた。自分でも驚くほど強く、切実な想いを秘めた力で。
  はっ、とこちらを振り向いた先輩の瞳が驚きに染まり、心許なくゆらゆらと揺れている。
  どうして、と訊きたくて。でも、訊けなかった。

「香穂、子?」

  掠れた声で名前を呼ばれ、真っ直ぐに唇を結ぶ。震えた唇を見られたくはなかった。
  だけど、掴んでいる腕から震えが伝わっていれば意味がないということに、今更ながらに気が付いて。泣きたくなった。
「香穂子。香穂子、どうしたの?」
  先輩は自分の腕に絡みついた私の手を、そっと大きな掌で覆った。
  そうして力を込めすぎて白くなった指を一本一本丁寧に外し、掴むものを失って更に小刻みに震え出した手を、やんわりと包み込み、優しく笑う。
「落ち着いて、香穂子。だいじょうぶ。だいじょうぶだから。ね?」
「せん、ぱい、」
「うん」
  小さく頷きながら、もう片方の手もとられ両手で覆われる。指先から、掌から、伝わってくる先輩のぬくもり。それらを噛み締め、意を決して顔をあげると、額に口付けが降ってきた。柔らかな感触に、じわり、と湧き上がってくる想い。

「おまじない。ね、落ち着いた?」

  どこか大人びた表情で微笑まれ、くしゃりと顔が歪むのがわかった。言葉にならず、泣き笑いにも似た表情で小さく頷く。何度も、頷く。
  それが悪かったのか、先輩は一度困ったように笑うと、私の身体を、ぎゅう、と抱き込んだ
「そんな顔しないで。なんだかこっちまで悲しくなっちゃうよ」
  その言葉に何と返せばいいのかわからなくて、私は先輩の背中に腕をまわすと、彼の肩に額を押し付けた。

「香穂子?」

  なんだか今日は甘えたさんだね。まあ、おれはいつでも大歓迎だけどね。
  言いながら、笑う。それが私を気遣っての台詞だってことが、痛いほどわかるから、尚更居た堪れない。優しい言葉をかけられれば、かけられた分だけ、こわくなる。
  こんなことを思ってる私を、先輩はどう思うだろう。
「せんぱっ……せん、ぱい。かずきせんぱい……」
  何度も、何度も、確かめるように名を呼んで、静かに耳を傾けてくれる先輩の存在に安堵する。なのに、どうしようもない思いをぶつけたくてたまらない。
  今、本当に私のことを考えてくれてますか?
  私のことだけを、想ってくれています か?

「和樹先輩、私――
「ん?」
  続く言葉が、彼を縛り付けてしまう力を持つことを、知っている。
  彼は優しいから。とてもとても優しいから、きっと私の言葉に頷いてくれるだろう。
  ……知っていて、それでも、あなたがどこにもいかないように、私は呪いにも似た言の葉を紡ぎだす。
「離れたく、ないです。私、先輩と離れたくない」
「香穂子? おれは、離れたりなんかしないよ?」
  当たり前じゃない、とでも言うかのように笑う彼を前に、なら、と小さな呟きが零れた。肩に押し付けていた顔をあげ、ゆうるり、と視線を合わせる。


「……なら、私だけを みて」


  薄い瞼が、いつもより多く持ち上げられる瞬間を、瞬きもしないで見つめていた。
  そうして何かに気付いたかのように目を細め、苦しさを閉じ込めた顔で、先輩は口元をゆっくりと持ち上げる。やはり彼は、こんな時でも笑おうとするのだ、とぼんやりと思いながら、冷えてゆく心の叫びを聞く。
  虚ろな思いで先輩の背中にまわしていた腕を解こうとすれば、それに気付いた先輩が強く私を抱きこんだ。
  今まで、どんなに優しく私を抱きしめてくれていたのか、思い知らされるぐらい、強く。

「……ずっと、悩んでたの? おれの知らないとこで、ずっと苦しんでた?」
「せんぱ、」
「おれ、彼氏失格だね。いっつも口ばっかりで、香穂子が辛い思いしてたことに、全然気付けなかった」
「そんなっ、そんな こと……」
  ない、と口の中で消え入りそうに呟いて、先輩の腕の中で小さく首を振った。
 「わた、私が、悪いんです。先輩が私のことちゃんと好きでいてくれてるってわかってるのに、でも、やっぱり不安で、疑うしか、なくて。信じきれないでいる私がっ……私が、悪いんです」 

  そうだ。先輩が私を好きでいてくれているってことを、私は知っている。
  ただ、柚木先輩と比べた時、どちらに傾くのか想像したくないだけで。

「香穂子」
  名を呼びながら、額へ、瞼へ、目尻へ、絶え間なく降ってくる先輩の唇を受け入れ、そっ、と目を閉じた。

「好きなのは、香穂子だけだよ」

  残酷な、彼の言葉に耳をかたむけながらも、目を開けることは出来なかった。先輩が、今、どんな表情をしているのか、手に取るようにわかってしまったから。



  ――もう、何も見たくはないと思った。



水底へ
( あなたを沈めるだけの 私でも、 )( あいして )



07年のらしいよ^V^なおすにもどこなおしていいかわかんなかったっていう。お題お借りしてたのに書ききる前に閉鎖されて、結局アップしなかった記憶が微かにあります。そして出てないけど、なんか珍しく加柚←火日のつもりだったみたいです。なにこの自分だけが楽しい設定^▽^ でもこの火原は本当に香穂ちゃん好きなんだよ、ほんとだよ。想い違いみたいなのを書きたかったはずなんだけど、そんなん私が書けるわけないっていうね^^^わら、えない。

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