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隠の王:雪見*宵風

最終巻読みました(´;ω;`)後半泣きっぱだったよ。
何か色々描きたいし、書きたかったんですが、もうなんか空回りしすぎて形になる気配もないので、以前書いたヤツ引っ張り出し(またか)
みんな好きだけど、なんだかんだでやっぱりこの二人は特別です。


「ゆき、み」



  タイプ音に容易く埋もれそうな掠れた声を、かろうじて拾いあげる。
  椅子の背もたれに身を預けて振り返れば、ソファーの上にある毛布の塊が、もぞもぞと動いていた。いつの間にかソファーで眠っていた宵風の身を案じたゆえの行動だったのだが、何か不都合でもあっただろうか。毛布の隙間から見えていたはずの頭が見えなくなっていた為、状態がよくわからない。
  立ち上がり、ソファーへ近づけば、もう一度か細い声が聞こえた。

「ゆきみ、」
「……此処にいる」

  毛布の隙間からあらわれた、細い指先を掴む。肉付きが良くなったはずの手は、また骨が目立ち始めていた。ずっと手袋で隠されている為、見ただけでは分かりにくいが、触れると良く分かる。
  ちり。触れている指先から胸へかけて、痛みが過ぎった。何もしてやれない自身の不甲斐なさゆえ、か。堪えるように奥歯を噛み締めると手にも力が篭ってしまったらしい。呻きにすらなり損ねた宵風の声を聞きとめ、慌てて力を抜く。
  けれど、手そのものを離すことは出来なかった。どうしても離したくはなかった。目を離す、どころか、瞬き一つで消えてしまう危うさを秘めた今の宵風を、此処に留め置く術をそれ以外に知らなかったのだ。

「ゆき、み?」

  戸惑いを多分に含む声が響き、揺らぐ瞳が毛布の隙間から顔を出した。その目を見て、幾分か心が落ち着きを取り戻す。
(大丈夫だ。 宵風は今、 確かに此処にいる)
  詰めていた息を吐きだすと、ぶっきらぼうな手で宵風の頭に触れた。がしがしとかきまぜたいのを我慢して、そっと撫ぜる。
  ぱしり、と振り払われてしまう瞬間を想像したのだが、いつまで経ってもその瞬間とやらはこなかった。よくよく見てみれば、宵風は目を閉じ、されるがままである。
  正に猫のようだと思ったところで、過ぎるのは在りし日のこと。焦燥、寂漠、そして一抹の愛しさ。
(馬鹿か、俺は)
  内心で吐き捨てるけれど、感情は拭えない。
  蘇るのは、昔飼っていた猫、“よいて”のことだった。
  いつの頃からか動きが鈍くなり、年老いた体をよく腕に抱いたものだった。自分なりに目一杯可愛がり、最期を看取る心積もりでいた。それなのに、よいては姿を消した。するりと俺の前からいなくなってしまった。その時の思いを、今もしっかりと覚えている。
  あんな思いは、もうごめんだ。

「……宵風」

  そろりと躊躇いがちに持ち上げられた瞼の向こうから漆黒の瞳がのぞき、まっすぐに俺を映し出す。
  言いたいことはたくさんあった。だというのに、何も声にはならなかった。心の内であふれかえった感情を言葉に変換し、伝える術を失ってしまったかのようだ。
  不思議そうに、でもほんの少し怯えた色を瞳にのせて、宵風が何度目かの瞬きをする。その姿を見て我に返ると、早々に口元に笑みを浮かべてみせた。この子供は、人の感情に敏感だ。いっそ悲しいぐらいに。
  先程よりも少しだけ乱暴に頭を撫でると、寒くないか、とだけ訊いた。あまり納得のいかない顔で、それでも安堵のようなものをのぞかせた宵風を見て、自分の選択が間違えていなかったことを、知る。
  肯定の意味をもってこくりと頷くのを見て、そうか、と返す。後は何事もなかったように立ち上がるだけだ。

  それなのに――今日は二人共、どうかしている。



  宵風の手を掴んだままだった手が弱々しい力で引かれ、白い頬へあてがわれた。直に触れた体温の冷たさに、ぎくりとする。
「あたたか、い」
  まるで俺の手が唯一の暖であるように、体を丸めて手の甲へ頬を擦り寄せる。
  そして、力なくも浮かべられた笑みを見て、場違いにもどきりとしてしまった自分を責める言葉すら、浮かばなかった。
  そんな俺の葛藤も知らず、宵風はまた眠りにつこうとしている。重さに耐え切れず落とされた瞼は、もうぴくりとも動く様子は見せない。
  長い睫毛が影を落とす、その先。青白くさえ見えるほどの白い頬は、やはり傍目にも肉付きが薄くなっているようだった。俺の手をあたたかいという低い体温、いつも頑なに隠されている服や手袋の下は、想像に難くない。

「……宵風」

  起こすためではなく、自分のためだけに名を呼んだ。
  空いている手で顔にかかる髪をはらってやると、あらわれたこめかみにそっと唇を寄せる。
  どうか、この子供が悪夢によって飛びおきませんように。
  どうか、この子供が夢の中で笑っていられますように。
  祈りが、どんなに儚いものか知っていながら、それでもお前のためだという俺自身のために、届けばいい。

(どうか、)



  今、この瞬間だけでも、冷えた心をあたためるに足る存在であれますように。




かみしめたぬくもり
( お前は確かに生きていたよ ) ( 生きている、よ )
 

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