「なあ、」
「はい?」
「何で、オレなんだ」
突然のことだったせいか、準太はきょとんと目を丸くして、何のことかわからないというように首を傾げた。それを見て、あー、と言葉を濁す。
今、聞くべきではなかったことに、今更ながらに気がついた。勉強中にこんなことを聞くなんて、どうかしている。
「や、なんでもない。聞かなかったことにしてくれ」
「なんスか、それ」
不満そうな準太の顔に、苦笑が浮かんだ。整った顔は、こんな時でも崩れないもんなのか、なんて馬鹿みたいなことを思うオレは、確実に毒されてきているんだろう。和さん、和さん、と慕ってくる後輩の、真摯な想いを前にして。
カチリ、短くなったシャーペンの芯を出すと、まだ途中の問題と向き合った。
どうして、こんなことを問うてしまったのか、自分でもわからなかった。
公式にあてはめる途中の、出来損ないの式。
後は、どこに何を代入すれば良かったんだったか。教科書とノートを照らし合わせて考え込んでいると、和さん、と掠れた声が聞こえ、ふ、と顔をあげた。
「……迷惑、ですか」
準太の細められた目が、こちらを見ていた。僅かに持ち上げられた唇は引き攣り、微かに震えているようだ。
本当は、笑って、何でもないことのように言いたかったのかもしれない。
でも、それは出来損ないの笑顔だった。今、オレのノートに書かれている式よりも、ずっと、
「……ばか、何言ってんだ。そんなわけないだろう」
否定の言葉を、彼が望むように笑って口にする。多分オレは、うまく笑えていたと思う。
ふにゃり、と準太の顔が緩むのがわかって、内心でほっとした。
「ほら、早くその問題解いちまえよ」
「っス」
オレが言った通り、頭を悩ませながらノートに書き込みをする準太の手元を何となしに見やり、真剣に問題と向き合う眼差しに、一瞬目を奪われた。
……馬鹿なのは、オレだ。最低なのも、オレ。そんなことを言えば、きっと準太は必死になって否定するのだろうけど。それが自惚れであれば、どんなに良かっただろう、と思うオレは、やっぱりお前には相応しくないのかもしれない。
だが、ない頭で考えた末に、出した答えが“今”だ。
それが本当に正しかったのかなんて。間違っていたのか、なんて。そんなもの、きっと死ぬ時にしかわからない。
ポキ。白いノートの上に転がった芯の欠片を、無造作に手で払う。過ぎった思いも負の感情も、一緒に手で払い落とすことが出来たらいいのにと思った。
そうであるように
――願った。
「よし、出来た」
小さく呟き、机の上でゆっくりと腕を伸ばした準太が、俺の視線に気づいて照れ臭そうに笑う。どこか甘く胸を締め付けるその笑みへ小さく笑い返すと、今度こそ頭を切り替えた。
どんな答えが待っていようが、もう関係ない。
この存在を手放すことなど、どうしたって考えられないのだから。
簡単な答え
( いつかお前と、笑って答え合わせが出来たら いい )
和準好きなくせに、いつも和←準になっていたので、両思いを!と気合入れたつもりだったんですが、見事に意味不明/(^o^)\ この二人も難しいですねえ!なんかもっとこう、メオト的な会話とかさせてあげられたらいいんですが(´・ω・`)